勝利とは?—自分がやってきたことの証明
http://www.velena.ru/skating/comp/2011/WCH2011_CH.html
# ロシア語→英語→日本語訳ですので、オリジナルと内容が変わってしまっているかもしれません。
# 誤訳があったらすみません
世界チャンピオンとは、スポーツマンの偉大な称号だ。ただ、フィギュアスケートの現世界チャンプにとっては、少しわけが違う。バンクーバー五輪の前、「フィギュアスケートにおいて、最も重要なものはジャンプに非ず」と主張したパトリック・チャンが、物議を醸したことは記憶に新しい。しかし今シーズンの彼は、ショートとフリーの両方にクワドを投入し、ヘイターをラヴァーに転じさせた。このカナダ人が氷上で動作する様を目にすれば、尊敬の念を抱かずにはいられない。いや、チャンや、彼のスケートを表すのに、「動作」という言葉はあまりに無味乾燥だろう。無限の才能の姿とは、こういうものかもしれない。
率直に言うと、モスクワで、このチャンピオンを取材する予定はなかった。男子の試合が終わるやいなや、ペアが始まり、私の予定は既にいっぱいだったから。そんな中、ミックス・ゾーンで暇を持て余し、寂しそうなパトリック・チャンをみつけた。アプローチしないのは失礼というものだろう。
Elena Vaytsehovskaya:
パトリック。プログラムに新しいジャンプを入れ込む難しさや、他のエレメンツとの両立が大変なことは理解しているつもりよ。少なくともここ数年、いろいろなトップ選手達の苦労を身近に見てきたわ。でもあなたはクワドを入れ始めると、まるでコンピューターゲームのように簡単にこなした。ボタン一つ押せば、他のエレメンツと置き換えられるかのように。どうやってそれができたの?
Patrick Chan:
それは実際のところ、努力の賜物です。シーズンが始まってからはほぼ毎日、コロラドのトレーニング拠点で、ランスルーをやってきました。クワドコンボ入りのSPと、2クワド入りのFSを。僕の言うランスルーは、本物のランスルー。途中で止まったり、疲れたらエレメンツを抜く、なんてことはしません。
クワドを入れることで、何らかの問題が生じることは最初から明らかでした。だからその影響を、最小限に抑えるため、できる限りのことを試みました。また練習では、オリンピックでの滑走をイメージしました。そこでは呼吸も含めて、全てのコントロールが不可欠です。そう、呼吸を意識するようになったのは、クワドのおかげです。例えばモスクワで2つ目のクワドを決めた直後、観客の熱狂が耳に入ってきたけど、僕はそこで深く息を吸い込み、そして吐き出しました。呼吸がきちんとできていると分かったら、突然、気持が落ち着いたのです。呼吸がコントロールできれば、他の全てもコントロールできます。周りで何が起こっていても、観衆がどんなに騒々しくても。
Elena Vaytsehovskaya:
誰にそれを教わったの?
Patrick Chan:
最初に教えてくれたのはキャシー・ジョンソンだと思います。僕のモダンダンスの先生。彼女はモダンダンスがライフワーク。最初のレッスンの時に教えてくれたのが、どんなにテンポが速くなっても息切れしない呼吸の仕方でした。もちろん、コーチのクリスティ・クロールにも意見を聞いて、「キャシーは専門家よ、助言を聞きなさい」とのお墨付きをもらいました。
その後、ブライアン・ボイタノからも同じようなことを聞きました。彼も呼吸にたくさんの注意を払うと教えてくれました。精神的にきつい時も、集中力を保つのに役立つそうです。これだけの専門家達の言うことを聞かないなんて馬鹿げてるでしょう?
Elena Vaytsehovskaya:
最初にクワド入りのプログラムに挑戦したのはいつ?
Patrick Chan:
昨年秋のグランプリシリーズ、スケート・カナダで。練習では不調だったけど、コーチと相談して、SPとFSの両方にクワドを入れることにしました。SPは回り切ったものの転倒。コンビネーションを入れられなかった。でもFSは降りられた。
この試合は素晴らしい経験になりました。まず練習でクワドを跳ぶことと、試合で降りることは全く違うことが分かった。この違いはとてつもなく大きい。説明は無理で、実際にやらなきゃ分からない。練習では、ただジャンプのテクニカルな側面だけに集中すればいい。試合では音楽を聞いて、それに合わせなきゃならないし、予測不可能なお客さんのリアクションもある。プレッシャーも大きい。モスクワで3回中、3回決められたのは感激です。でもこれでクワドの問題が永遠にクリアされたわけじゃない。より安定させるには、もっとたくさん細かい点を詰めなければなりません。僕は、まだ始めたばかりだから。
Elena Vaytsehovskaya:
呼吸がクワドの助けになると気づいたのは、シーズンのどの辺り?
Patrick Chan:
グランプリシリーズのスケカナやモスクワでは、まだあまり考えていませんでした。ええ、たぶんクワドをどうしたらもっと安定させられるのか、悩み始めた頃だと思います。(※ モスクワのグランプリシリーズにて、チャンはSPで4-3を完璧に決めたが、FSでは回転不足の判定となった。)グランプリファイナルでは、もっと呼吸に集中するようになっていました。
Elena Vaytsehovskaya:
グランプリシリーズで負の経験をして、両方のプログラムにクワドを入れる効果に疑問を抱かなかった?
Patrick Chan:
No. スケカナとモスクワでは転倒がありつつもコンポーネンツが高かったことで、背中を押されました。呼吸の効果も出始めていたし。
Elena Vaytsehovskaya:
スケートが身体的に楽になってきた、ということ?
Patrick Chan:
正確には違います。確かに正しく呼吸すると、筋肉に酸素がたくさん供給されて、疲れにくくなる。でもそれは大したことじゃない。シーズン中、僕は高地でトレーニングしているので、持久力が問題となることはありません。もっと精神的なものです。呼吸がコントロールできていれば、背中の硬直もなくなり、肩の力も抜ける。そうすると、ステップの感覚もずっと良くなります。
Elena Vaytsehovskaya:
身体の制御が効かなくなるほど、緊張することもあるの?
Patrick Chan:
何回も。それも最近のことです。例えば昨シーズン…というより、昨シーズンも含めて、毎回、かな。外から見ると、僕は神経がないように見えるらしいけど…。周りのみんなに「チャン?あいつは緊張なんかしないよ」と言われているのを何度も聞きました。もし彼らが、つい一年前の試合で、僕の内面がどんなことになっているかを知ったら、とても驚くと思います。
バンクーバーオリンピックが特に酷かった。氷上に上がった時の僕は、橋の上から飛び降り自殺しようとする男が、最後の一歩を踏み出せないような心理状態だった。息が詰まって、酸欠で、視界が暗くなり、耳が遠くなり…それがプログラムの終盤に行けばいくほど悪化した。この時から僕は考え始めたんだ。試合中、なんとか精神を切り替える方法を学ばなければ、先行き暗いぞと。
Elena Vaytsehovskaya:
プルシェンコはトリノオリンピック・チャンピオンになる前、6つのクワドを跳べる最初のスケーターになりたいと言ってたけど、あなたはどうかしら?
Patrick Chan:
僕の場合、ループとサルコウは抜かさなきゃ。今年の夏は別のクワドを学ぼうと思っています。フリップかルッツで。
Elena Vaytsehovskaya:
去年、トリノワールドで4Lzに挑戦したタカハシにインスパイヤされた?
Patrick Chan:
もちろん、きっかけは彼。トリノからコロラドへ戻ったとき、僕が降りられそうなクワドは4T以外何だろう、とトレーニング仲間に聞いてみたら、みんなルッツかフリップだって。後はどちらがやり易いか考えて、選ぶだけ。
Elena Vaytsehovskaya:
プログラムの構成をより高難度にして行くってわけね。
Patrick Chan:
うん。ただしジャンプが他の要素に影響を与えない範囲で。スピンやステップ、トランジションも同じくらい重要だし、もしかしたらそっちの方が観客やジャッジの期待に沿うものかもしれないから、犠牲にするつもりはありません。
Elena Vaytsehovskaya:
あなたはステップから高難度ジャンプを跳べる希少なスケーターよね。こんな予測不能な振付をやらせようと思ったのは誰?
Patrick Chan:
僕の最初のコーチ、オズボーン・コルソン。(※2006年に90歳で死去)コルソンさんからスケートを学び始めてから最初の2-3週間は、まったくジャンプをやらせてもらえませんでした。コルソンさんは、まず僕が足でできることを確認したがった。僕はいろんなステップをやりました。新しいステップも学びました。バランスの向上を目指し、ステップを踏みながら、スピードを保つことを憶えました。エッジに神経を傾け、新しいステップのコンビネーションを発明しました。今ではこう言えます。ミスター・コルソンがいなければ、僕はエッジで何ができるのか、知らないままだったでしょう。
このトレーニングは素晴らしい基盤となりました。年を重ね、経験を積むにつれ…また、いろんなコーチや振付師と作業するようになるにつれ、この基盤はより強固なものとなっています。ジャンプはその一部分にすぎません。
Elena Vaytsehovskaya:
最初のコーチのことはよく考えるの?
Patrick Chan:
ロシアへ来る前、一週間トロントで過ごしました。フライトの合間を縫って、僕はコルソンさんの眠る墓地を尋ねました。しばらく座って、コルソンさんと話をしました。生前、彼と話をするのが大好きだった。彼はよくこうつぶやいていました。「アジア系のスケーターがチャンピオンになる日がやって来る」と。その様子をよく憶えています。コルソンさんはそのスケーターの名前を口にしなかったけど、誰のことを言っているのかは明らかでした。いま思い出すと変な感じです。5年前亡くなったのに、コルソンさんの予言は全て現実になりました。
Elena Vaytsehovskaya:
あなたと二位の選手の間に20ポイント以上の開きがありますが、この差は大きい?そうでもない?
Patrick Chan:
背後の選手達に、何をどう向上すべきか、考えさせるだけの差はついてると思います。どのエレメンツを学ぶべきか、プログラムのどの部分に磨きをかけるべきか。ただ、彼らがそれをするのを、僕は立ち止まって見ていたりはしません。今だって、頭の中には、より強くなるための計画や考えがたくさんあります。さっき言った4Fもそうだし、新しいプログラムのことも。何回タイトルを取ろうが、一番大切なのは、常に白紙に戻って再開すること、それができる能力だと思います。
僕の言うのは単純なことです。例えば、今日までにグランプリを何回か取ったとします。それを守ろうとする意識で氷上に立てば、僕はたぶん気が狂ってしまう。そうじゃなく、新しい試合は、新しい試合なんだと考えるようにします。新しいライバル、新しい環境、氷上では新しい気持ち。一番大切なのは、競技を長く続けられるよう健康であること。モスクワはうまく行った例です。オンアイスでもオフアイスでも、自分のやるべきことをやって、感情をコントロールし、100%の状態じゃなくてもそれなりの結果を残せました。
Elena Vaytsehovskaya:
そうそう、ミックスゾーンで言ってたわね、最高のコンディションでない中、優勝したって。
Patrick Chan:
ええ、最終日は気分がよくなかった。でも、それを踏まえての経験も積めた。苦痛があっても、それに囚われなければ乗り越えることができるということ。あと、モスクワに来て視野が開けたというのもあります。勝利とは、言わば自分のやってきたことの正しさの証明です。氷上に出て諦めるのか、2つのクワドをFSに入れるのか…正直言って、迷いはありました。たくさんの人に、FSの2クワドはリスクが大きすぎると言われました。だから簡単な決断じゃなかった。でも、もしやっていなかったら、今頃もっと迷ったり考えたりしなければならなかっただろうと思う。
Elena Vaytsehovskaya:
精神的な安定性について、ずいぶん話したわね。
Patrick Chan:
僕にとっては他の何より重要なこと。僕は気が散りやすいので、ハッピーでいること、笑顔でいい気分なことが大事なんです。試合は皆が自分自信に集中する。このピリピリしたムードは、はなっから僕に合いません。居心地良くするためには、感情や心理状態のコントロールが必要で、これは結構大変なことなんです。
Elena Vaytsehovskaya:
FSでは第一滑走だったわね。その後の選手は見た?
Patrick Chan:
タカハシだけ。
Elena Vaytsehovskaya:
彼のブレードの事故はショックだった?
Patrick Chan:
そうでもありません。もちろんダイはアンラッキーで、この事故は気の毒に思うけど、装備もスポーツの内だから。氷の上では何が起きるか分からない。スケートでも、靴でも。この瞬間のためにワンシーズン練習を積むのなら、装備にも気を配らなきゃならない。僕にはスケートの状態を管理する専門家がいるけど、僕自身も細かいところまでチェックします。少しでも怪しい部分があれば、納得できるまで専門家を放しません。そうしなければ…日頃の努力は何のためってことになる。
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